あけましておめでとうございます。松井研究室修士1年の日髙楓雅です。

松井先生をはじめ様々な人に助けていただいたおかげで、卒業論文の内容をML for Systems at NeurIPS WS 2024で発表することができました。本記事はそちらの参加記になります。ただし、この参加記は学会成分は薄めです。「英語と旅行が苦手な大学院生が初海外出張に行ってみた」という内容の随筆だと思って読んでいただければ幸いです。

Day \(-n\)

生まれてから今まで海外に出ようという発想をしたことがなかったため、未だパスポートというものを発行していなかった。9月末の論文投稿直後にパスポートについて調べてみるが、どうやら発行までにある程度時間がかかりそうだということや、宮崎県 (地元)に本人が受け取りに行かないといけないということがわかってくる。もともと10月中旬に運転免許更新で宮崎に帰省する予定だったが、1週間でパスポート発行が間に合うかやや怪しい。困ったので両親に相談すると、申請だけなら本人でなくても良いということが判明。厳しいと噂の顔写真の準備などに手間取りつつも必要な書類を何とか揃え、代理申請に成功した。ちなみに論文の採択通知が来たのは帰省中のことであった。家族で論文採択をささやかにお祝いしつつ、完成したパスポートを受け取りに行った。

Day 0

初海外ということで、準備には非常に神経を使った。両親やChatGPT 4o (全員海外旅行未経験)に必要と想定されるものや治安などの相談をしながら準備を進めた。当日の朝は忘れ物がないかどうか特に入念にチェックをして出発した。空港では先輩後輩と3人でラウンジに行き、カプチーノを飲みながらPC作業をして優雅な気分に浸ることができた。搭乗口では入江先生とお会いすることができ、松井先生と入江先生の謎の掛け合いを楽しんだ。

旅行嫌いな自分が特に苦手とする飛行機での移動がやってきた。宮崎・東京間の1.5時間のフライトですら辛いと騒いでいるのだから、東京・バンクーバー間の9時間弱のフライトなんて気が狂ってしまうのではないか?と思いながら搭乗した。離陸直後はよかったのだが、機内サービスがやってきて流れが変わった。隣の人がお酒をオーダーしたのだ。しかもかなり匂いが強い。日髙が高校の保健の授業のアルコールパッチテストで気分が悪くなって保健室に運ばれた話は有名である。これはまずい…なんだか体が熱く感じるし、手が小刻みにふるえてきた。先輩や同期にチャットで泣きつきながらも、どうしようもないので気を紛らわせるために前方のモニターで何か見ることにした。目に留まったのは『花束みたいな恋をした』だった。一時期研究室で『みんなで早押しクイズ』が流行っていたのだが、そのとき出題されて答えられなかった問題である。ここで遭遇したのも何かの縁だろうと考え、クイズの戒めも兼ねて視聴することにした。ふむふむ、ジャンケンでグーがパーに負けるのはおかしい?ガスタンクが好き?視聴を始めたはいいものの、相変わらずのお酒の匂いと飛行機の騒音 (イヤホン難聴が怖いのであまり音量を大きくしたくない)で内容があまり頭に入ってこないまま終わってしまった。次に『みんはや』で出題されたとしても押し勝てるかどうかは怪しいところである。

色々ありつつもバンクーバーに到着した。外に出てみると想定していたほどは寒くない。分厚いダウンジャケットを持ってきたがもう少し荷物を軽くできたかも…と思いながらホテルへと移動した。移動中にポキ丼のお店で昼食をとることにした。全員が当たり前のように英語で注文をしているのに自分だけ全然うまく注文できない。正確には注文できないというより「〇〇のオプションはどれにしますか?」などが全く聞き取れない。🤔という顔をしていると見かねた店員さんが「これでいいですか?」と提案してくれた気がしたので、すかさず”Yeah!”と誤魔化してその場を乗り切った。英語の下手さに絶望していたらホテルに到着した。これを経験してしまうと夕食に出かける気にもなれず、早めに寝て12時間睡眠を摂取した。

Day 1

初日はやはり不安も大きいので、ホテルから会場へは全員で向かった。バンクーバーの朝はかなり冷えていたが、ホテルが朝限定で提供しているコーヒーを飲みながら移動したため、内側から暖まりながら会場まで歩くことができた。

1日目は主にチュートリアルであった。とりあえず見つけた部屋の空いていた席に座って聞いていたが、ここで「この会議は前方の席を確保することが非常に重要である」と気づいた。スライドの文字の小ささなどもあり、前の方の席に座らないとスライドの文字が読み取れないことが多い。英語の聞き取れなさも相まって理解できない部分も多々あったが、NeurIPSが始まったという雰囲気を強く感じることができ、非常にワクワクしていた。

また、会場ではコーヒーや紅茶が無料で提供されていた。MIRUやIBISなどの過去に参加した国内学会でもドリンクが充実していたため「学会は飲料代が浮かせて助かるな〜」と、ありがたくごくごく飲ませていただいた。昼食はケータリングとしてハンバーガーが提供された。やけに大きくパサパサなのが特徴で、満腹中枢を非常に刺激しやすい点が高評価。コーヒーが恋しくなってきたので探しにいくが、どうやら案外早くに片付けられてしまったらしい。しばらくして夕方に復活していたが、そこまでするなら1日中提供してくれ〜と思っていたのはここだけの話。夜にはWelcome Receptionが開かれた。企業展示ブースで日本人交流会が行われていたが、少し遅れて出向いたらすでに輪が形成されており、SAN値が下がりきっている状態ではとても入り込むことができなかった。仕方ないので「見ることすなわち支配すること」という有名な格言を思い出し、会場を歩き回ることにした。散策していると、壁にかけられたドーナツやローストビーフなど、美味しい食べ物をたくさん発見。企業ブース周辺の食べ物は正直口に合わないものも多かったので、輪に入れなかったことを少しだけ感謝した。

Day 2

ポスターセッションが始まった。巨大な会場に大量のポスターが並んでいる様は壮観で、ただ歩き回っているだけでも楽しい。タイマンで議論するほどの勇気・英語力・背景知識を持ち合わせていないので、基本的には人が群がっているポスターを後ろで聴講する形で発表を見て回った。最新の研究動向を何となく把握できて勉強になる一方、我らがLearned Indexのシェアは全然なさそうな様子である。松井研究室データ構造班あるある「どこの学会に参加しても絶妙にテーマがマッチしない」はNeurIPSですら健在であった。視点を変えれば、まだ貢献を生んだり布教したりする余地があるということなので「Learned Indexといえば松井研究室でしょ」が実現できる可能性があるのかもしれない。

余談だがこの2日目が出張中で最も精神衛生が悪化していたタイミングであった。英語力や今後控えるポスター発表の件に加えて、日本から持ち込んできていた4本の綾鷹500mLをあと数日で飲み尽くしてしまいそうだったのである。もしお茶がなくなったら自分の英語力で飲料を買いに行けるかな…水道水を飲むしかないのかな…水道水は不思議に濁っているし風味がイマイチ苦手だからできれば飲みたくないな…干からびたくないな…今思い返すとあまりにちっぽけな病み方であるが、当時の私は全てが嫌になっていた。夕食を食べることもせず、ケータリングの謎バーガーの1日1食で済ませて即帰宅&即睡眠を決め込んでいた。

Day 3

3日目はOB・OG会があった。AYMグループのレジェンドともいうべき方々に囲まれながらの食事というあまりにも貴重な機会である。他ではまず聞けないような体験談を聞きながら食べるパンケーキは本当に美味しかった。

夜は先輩・後輩とパスタを食べに行った。これが今回の出張のターニングポイントとなった。メニュー表にカルボナーラが見当たらないので「最もクリーミーなパスタはどれですか?」と先輩が聞いてくださった。しかしどうやら”creamy”が通じていない様子である。先輩は折れずに”creamy”を説明込みで通そうとしていたが、それを見て英語力よりもパッションの方が大事なのではないか?と気付きはじめる。注文後に話を聞くと、なんと先輩も英語が聞き取れないことは全然あるらしい!!!とりあえず”Yeah.”と条件反射するが、相手が「?」という顔をしたら質問されたということだから「やべっ」と思いながら聞き返すのだとか。「この表現は失礼にあたらないかな…」とか「文法的にいいのか…?」とか考えていたのがバカらしく思えてきた。英語は聞き取れないもの(?)だし、とりあえず何でもいいから喋れば十分だと気付かされ、大きく気が楽になった。

メンタルが回復したからか、ホテルに帰ってシャワーを浴びていたら新しい発見があった。バンクーバーの水が自分の肌に極めてよく馴染む。手を洗ったりシャワーを浴びたりすると手や全身がスベスベしてなんだか気持ち良い。調べてみるとバンクーバーの水は超軟水で、日本の水よりもかなり軟らかいようだ。なるほど、道理で肌がスベスベするのか。幼少期から(特に手は)皮膚が弱く、強いストレスなどがかかるとボロボロになることもあるので肌がスベスベになる超軟水は非常に魅力的。手を洗うときだけでもバンクーバーの水道水を使いたいなぁ…

Day 4

ポスターセッション3日目の後にClosing Receptionが行われた。前回は複数フロアに分かれていたため人も分散していたが、今回は会場が1箇所に集約されていたため人が密集しすぎていて食べ物を獲得するのが非常に困難。メインディッシュは諦めて離れの方に歩いてみると人がほとんどいないところでアイスクリームを見つけた。これがなかなかの絶品で「今回のバンクーバー出張で一番おいしかった食べ物は?」と聞かれたら自分はこれを挙げたい。健康には悪いだろうが、この日の夕食はアイスクリーム3カップとなった。

夜に一念発起してスーパーマーケットに行くことにした。とにかく一番の鬱の種であった飲料枯渇問題を解決しておきたかった。Google Mapでアジア系のスーパーマーケットを見つけたので入ってみる。値札は”ea”や”lb”など知らない表記ばかりで不安な気持ちを掻き立てられるが、商品は日本人フレンドリーなものも多く安心感も同時に得られる。飲料コーナーにたどり着くと麦茶を見つけた。迷わず麦茶を手に取り、最も不安だったキャッシャーもなんとか通過し、2Lの麦茶をむき出しで抱えながらニコニコでホテルに戻った。下の画像は購入した麦茶の写真である。これほどまでの多幸感を感じながら麦茶の写真を撮ることは、自分の人生で先にも後にもこの1回だけであろう。

Day 5

この日からワークショップが始まった。自分の発表は明日なので、この日は様々な部屋を巡って(特にポスターセッションの)雰囲気がどんなものなのかを見て回った。想定していたよりどこのワークショップにも人が大勢押しかけており、特にポスターセッションは少人数なところでさえも活発な議論が行われていた。ワークショップに来るということはその分野に一定の興味があるということだからであろうか。明日は我が身か…と震えながら一日を過ごしていた。

夕食は先輩・後輩および相澤先生と中華料理をいただいた。お昼に行った天丼屋 (自分はエビが苦手なので天丼ではなくカツカレーを注文した)もそうだったが、バンクーバーでの食事はどこに行っても本格的で美味しい。その国で独自に発展したタイプではなく、オリジナルを強くリスペクトした料理が海外で食べられるのはかなり貴重なことではないだろうか。途中で相澤先生が「幸せだなあ…」としみじみおっしゃっていたことが強く印象に残っている。

夜は松井研究室の競プロ勢3人で東京工業大学プログラミングコンテスト2024 (Div. 2)に出場した。結果は183チーム中18位とまあまあ。実力に対して解けるべき問題は全て解けたと思うが、全体的に考察が遅かった点が要反省。

Day 6

ワークショップの2日目で、自分にとっての本番の日である。朝一番から伝説的エンジニアJeff Deanや、松井研究室データ構造班の産みの親(?)Tim Kraskaの公演があったので早起きして時間よりやや早めに到着した。しかしすでに会場は立ち見で溢れており、発表前から圧倒的なカリスマ性を見せつけられた。

ついにポスターセッションの時間がやってきた。ポスター発表をするのは夏のMIRU、秋のIBISに続き3回目である。前日に英語で発表内容を暗唱できるようにしたことはもちろん、過去のポスターセッションでよく質問された内容に対する英語返答も考えてきた。緊張はしたものの、自信をもって話すことができた。最も大変だったのは質疑応答である。相変わらず英語を聞き取ることができず、頻繁に「もう一回言ってくださいませんか?」と聞き返してしまった。正直2回聞いたところであまり聞き取れないのだが、聞き馴染みのある単語を部分的に拾って「この単語の集合ということはこういうことが聞きたいのかな?」と連想することで乗り越えていた。MIRUとIBISの2回のポスターセッションで典型質問が大体出尽くしていたことが大きな救いだった。やはり発表力は場数に比例すると感じる。ポスターを見に来てくださった方から”Cool!”などと褒められるのは非常に嬉しく、今後も研究を頑張るモチベーションになった。

発表ポスター。論文はこちら

夜はキャピラノ吊り橋に出かけた (先輩のうち1人は「吊り橋は死ぬ可能性がある」ということでチケット売り場で引き返してしまった;;)。吊り橋効果の聖地とのことだが、実際に渡ってみるとドキドキという感情より「揺れててウケる (笑)」といった感情の方がよほど強い。「観光スポットとして開放するくらいだからどうせ安全だよなぁ」と深層心理で考えている節がある。写真を撮っていると突然我に帰り、卒業旅行で草津に行ったときの研究室同期の言葉を思い出してしまった。川や木などは本来発光しないのにイルミネーションで作為的に照らされている。雄大な自然を楽しむというよりは「俺が考えた最強のイルミネーション!ここで写真をとってね❤️」という作者の意図に転がされているなぁと感じた (不幸なマインドだと思うので捨てたいが…)。

Day 7

午前中はホテルの近くのスーパーマーケットでお土産のメープルクッキーを購入した。ありきたりではあると思うが、自分は(家族も?)食べたことがないので十分プライスレスなお土産になりうる。バンクーバー物価としては破格である約400円で1ケース (18枚入り)を購入でき、味も上品な甘さでおいしかったので良い買い物になったのではないかと思う。

一方で大変そうだったのはプリンを購入した先輩である。帰り道で賞味期限を確認するとなんとプリンの賞味期限が切れていた。当然スーパーマーケットに戻って店員さんに聞きに行くのだが、なぜか押し問答になってしまったらしい。しばらくして別の店員さんがやってきて「ああ、これは期限切れだね」と交換してもらえたとのこと。

昼食は全員でお寿司を食べた。こちらはオリジナルの握り寿司ではなくカリフォルニアロールであったが、こういう料理だと思ってしまえば普通に美味しい。食べながら議論していたことは「海苔の外側にお米を巻くというのはどういう発想で至ったのだろうか?」ということだった。

最後の関門として待ち受けていた帰りの飛行機。行きより約2時間長い10.5時間のフライトで非常に気が滅入る。しかも往路の便でお酒をオーダーしていた人を空港の搭乗口で見かけて身構えしまう。今回は隣の人がお酒を注文しない人だと嬉しいな…蓋を開けてみると、今回はお酒に泣かされることはなく、10.5時間のフライトも思っていたよりは楽に終わった。すべて終わった開放感が大きかったのだろう。

帰国後最初の食事は、研究室にお土産を渡しに行くついでに寄った学食であった。すでに何度も書いた通りバンクーバーの食事は全体的に美味しかったため、特段「日本食最高!」という気分に浸れたわけではなかった。とはいえ毎日のように食べていた学食はやはり落ち着く味で、日本に帰ってきたなあとしみじみ感じながら自分の初海外出張は幕を閉じた。

おわりに

初海外は英語(と旅行)が苦手なせいで詰み散らしていたと感じました。しかし場所がバンクーバーであったことは幸いだったと思います。すぐに思いつくだけでも

  • 治安が良い (1つ曲がり角を間違えると怪しそうな場所に出てしまうこともありましたが…)
  • 適切に選べば日本人の口に合う食べ物が多く存在する
  • 日本人コミュニティが比較的発展している
  • 高すぎない物価
  • 空気が澄んでいる (路上喫煙は多いです。日本と比べて副流煙が辛い (からい)印象を受けました。)

などのいいところがありました。素晴らしい土地で素晴らしい学会に参加できたことは自分にとって非常に大きな経験値になりました。この経験を糧に、修士2年でも研究(と英語の勉強)を頑張りたいと思います。